TOMBIとはなにか

TOMBIの正式名称は、和名、救急救援野戦病院における総合医療・生化学情報システム(Total Medical and Biochemical Information System for Emergency Relief Field Hospital)であり、災害等の現場において医療救援活動をテント等の臨時の施設で診察・処置・検査・手術・入院・輸血・薬剤管理等の病院機能を補助する電子カルテシステムです。

また2024年には、国内医療救援において、標準災害医療記録やJ-Speedにも対応しました。

TOMBI開発の経緯

2012年大阪赤十字病院国際医療救援部の中出雅治医師の依頼で、医療救援現場での「医療データベース」を開発したいとの要請で始まりました。当初は、災害等の現場で1つの班が1台のPCと3台のiPadから構成される最大3班のユニットでそれぞれの地域へ車両・徒歩で出向き、診療を行なってベースキャンプで戻ってくるという想定でした。中出医師は、当時も海外で救援活動に携わっている時間の方が多いくらい、日本赤十字の医療救援の海外での現場を知り尽くした方で、また、コンピュータプログラミングも経験があるという、まさにTOMBIの父であります。

開発者である私は、1975−76年の高校時代にアメリカのニューヨーク州トロイ高校に留学した時代に、高校の向かいにあった工科大学R.P.I.(Rensselaer Polytechnic Institute)からタイムシェリングでコンピュータの端末を操作して学習するコンピュータサイエンスという学科を受講したことがコンピュータとの出会いでした。R.P.I.のコンピュータ本体を見学した折、その馬鹿でかい装置とマウスもない、画面さえない端末で四苦八苦してようやく作ったブルズアイゲームのしょうもなさに、近い将来にコンピュータが個人の手元に届くことはないだろうと思ったものでした。そこが、SteveやBillとの決定的な違いであったことは、この半世紀の歴史がものがっていますね。

ともあれ、私はその後、地質調査会社でデータ収集や簡単な解析を行ったり、ディープウエル工法のための予想地下水位ソフトをはじめとして、CADでボーリンク調査結果のデータをボーリング柱状図と想定地質断面図を自動描画するソフトを開発したりしていましたが、その会社も倒産して、私の手元には、MacBook Proが1台残ったので、なんとか知り合いの小さな商店などの顧客管理とか販売管理とか、一人の先輩は、不動産鑑定士となっていたので、地価を半自動的に推定していくソフトとか、さらにもう一人の先輩は、大阪赤十字病院の循環器科医師となっていて、自分で作ったFileMakerの心臓エコーとカテーテルのデータベースを作り込んで欲しいという依頼などで食い繋ぐということもありました。そして、その循環器のデータベース「Cardiology Database System」は現在も現役ですが、それが医療との最初の出会いであり、そこから大阪赤十字病院様との縁が始まったのです。

そうして、医療と大阪赤十字病院と私はお付き合いが始まったのですが、しばらくして、循環器科の技師さんがもともと国際医療救援に興味があったらしく、ちょうど海外への持っていったパソコンが現地でウイルスに汚染せれてしまう問題があったので、私を中出先生に紹介していただきました。そして、その中出先生と出会いが、TOMBI誕生の始まりだったということです。

当初、このプロジェクトの要件は以下のようなものでした。

  • 災害等の現場であることから、インターネットの利用は期待できない
  • 各班がそれそれ、1台のPCでデータベースサーバを構成して、入力端末であるiPadがWifiで接続する
  • システムは可能な限りコンパクトであり、堅牢であること
  • 毎日ベースキャンプに帰還後、最大3つの班のサーバのデータは同期すること

当初想定したのは、ベースキャンプから毎日、朝にFileMakerProをインストールしたPC1台をFileMakerの簡易サーバとしてモバイルWiFiルータに接続、端末にFileMakerGoをインストールしたiPad2台を最小セットとして、最大3班で現場へ向かい、受付(iPad)、診察(iPad)、薬局(PC)で診療業務を行うということだった。

本プロジェクトの最大の問題は、スタート時点では、細かな要求仕様さえなく、中出先生の頭の中にある災害現場の経験と医師としての知見を少しずつ具体化していくという手法以外にないということでした。もちろん、参考にできるようなシステムはありません。予算はとりあえず、100万円です。完成したとしても、大量に売れるようなものでもなく、開発費用としては、一桁も二桁も少ないものでしたので、ビジネスモデルとしては成立するとは思えませんでした。

しかし、中出先生の熱意とまた、日本赤十字社の医療救援に携わる人々の献身、そして何よりも、そのシステムがもたらすメリットを考えた時、また、わずかな希望としては、国際赤十字社が取り上げられたり、各国の救援隊に販売できれば、大きなビジネスチャンスにもなると思い、引き受けました。

まず、上記の条件下では、実際に動作するものを作っては、検証し、見直しては改変する、いわゆるスクラップアンドビルトで進める必要があること、赤十字というサイバー攻撃の対象になりやすい組織が使うので、基本的なセキュリティやアップデータ対応などはプラットフォームが引き受けて持続できること、そして5台までなら、共有の設定をオンにするだけで、簡単にサーバになることができることを考慮すると、FileMakerを開発のプラットフォームにするという一択しかありませんでした。というより、FileMakerがあったからこそ、私はこの開発ができると思ったというのが本当のところでした。今は、FileMakerのようなローコードでの開発は日陰から陽の当たるところへでてまいりましたが、当初はオープンソース、Webアプリケーションが持て囃され、FileMakerで開発するメリットをなかなかご理解いただけない時代でした。

オープンソースはなるほど、ソフトウエアがある程度完成されて出来上がり、それを管理する団体や組織がしっかりとあるのであらば、将来に対しても持続可能であると思いますし、本件のような公共性の高いソフトウエアにもってこいとは思います。しかし、どのようなソフトウエアもハードウエアの進展やOSの更新、または、発見されるバグやセキュリティホール、日々更新されているハッキング技術に対して、絶えずアップデートしていかねばなりません。それを管理する責任者はかなりの知識と技量をもつエンジニアである必要があります。それが可能なのでしょうか?TOMBIはFileMakerの開発元のクラリス社にライセンス契約料を支払う必要がありますが、その分、基礎的なアップデートはすべてクラリス社が行い、新しい技術に対してもFileMakerは先進的にアップグレードしてきました。

本件のような絶対需要が非常に限られたプロジェクトには、上記の意味においても最適なプラットフォームと考えました。

2023年、マルチ言語の病院版へと進歩する

そして、2023年、TOMBIは、当初の3班移動巡回クリニック版を内包しながら、ログイン別複数言語対応の病院版へと大きく成長しました。

TOMBI全体の設計思想は以下の通りです。

オーダー管理

投薬/検査/入退院/手術などはすべて医師からのオーダーが起点となり、それぞれの部著でリアルタイムに追加表示され、実行された時に発注元で表示が変更されます。オーダー時に発番されるオーダー番号は、患者IDや基本情報とともに各オーダーに紐づいていて、たとえばレントゲン撮影のオーダーは富士フィルム社製のX線カメラシステムへ伝送され、レントゲン撮影現場での入力の手間を省き、医師の意図を正確に伝えます。さらに、撮影された画像はDICOM形式のファイルに、オーダー番号、患者IDなど情報を含めて、DICOM画像サーバである、MacBookのMiele-LXIV(Osirix)に送られます。レントゲン技師はその時点でTOMBIの該当撮影オーダーに「撮影完了」のボタンを押すことで、オーダーされた医師の端末の表示が、オーダー済みから撮影完了と変わるので、医師は、画像表示ボタンをクリックするだけで、DICOM画像サーバである、MacBookのMiele-LXIVに問い合わせて、該当画像を表示することができます。また、患者IDでも管理されているため、同じ患者の過去の画像を簡単に探すこともできます。

リアルタイム追加・変更表示

ファイルメーカーの特徴である、入力後、その項目やページを離れると自動的にサーバに保存され、レコードの追加、変更はほぼリアルタイムで、他の端末に反映されます。この同時性は、開発のプラットホームにFileMakerを選択した大きな理由でもあります。また、画面表示や検索、または入力時の反応を高速化、安定化させているのは、サーバをインターネット上に置かず、現場のローカルに置いていることの最大のメリットです。つまり、特に災害現場などインターネットに接続できない、もしくは貧弱か不安定な環境下でも全く影響されないのです。

iPadを端末に利用することでの入力の省力化やQRコードの活用

可能な限り入力は、選択肢をタップして選ぶということで可能にしました。また、選択肢はIDNoで管理されており、このことがマルチ言語対応できる鍵でもあり、集計、検索などでもマルチ言語で対応しながら結果をシェアできる要因でもあります。また、iPadなどタブレットの特性でもある、内蔵カメラを利用して、受付での患者の顔写真の撮影や患者IDのQRコード化、QRコードの読み取りなどが簡単にできることで、海外での患者誤認のリスクを最小限にするような工夫がされています。

端末別複数言語表示対応

端末でログインした人毎に表示する言語を変更することが可能です。これもインターネットでGoogleなどの翻訳を使うのではなく、あらかじめ翻訳された語句、選択肢等のセットを内包しています。現時点では、英語、日本語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、デンマーク語、ロシア語に対応していますが言語セットは出発前準備でさらに多くの言語を追加することができる仕様になっています。また、インターネット環境下ではその内蔵言語セットをAI翻訳DeeplやGoogle翻訳を使って、自動翻訳も可能で、自動翻訳後その言語に精通している方に添削をお願いできれば精度の高い翻訳セットが比較的容易に準備できます。
また、選択肢はすべてIDNo管理しているため、どの言語で選択肢を選択しても集計や検索では同じ結果を得られるように設計されています。

インターネットの利用も考慮されている

TOMBIは基本的にインターネット環境がなくても、全ての機能が問題なく動作するように設計されていますが、メインルーターであるYAMAHA RTX-830のWAN側には、インターネットを接続する用意があります。また、RTX-830は、複数の設定(config)を内蔵できるので、あらかじめ想定できる設定を準備できます。
TOMBIは平時には、光回線に接続して、更なる改良や派遣要員の操作講習やテストでインターネット上に開かれています。救援派遣時には、例えば、現在検証中ではありますが、Starlinkなど衛星利用のインターネット環境に接続して、YAMAHAのDDNSを利用してインターネットに対してもサーバになることが可能です。また、VPNで外部から接続してメンテナンスやサポートが遠隔地からリモートのLANに入ることで可能にしています。

  • 外来受付(QRコード読み取りによる再来患者の即時同定)
  • 外来診療(WHO/ICD10分類/ヘルスカード・処方箋発行)
  • 薬局(調剤/在庫管理)
  • レントゲン(RIS/PACK対応。撮影指示自動送信/DICOM画像配信)
  • 手術(手術台帳/同意書管理/予定表)
  • 分娩(パストグラム/新生児記録/出産証明書)
  • 入院(バイタル・食事・処置の記録/管理)
  • 血液検査
  • 入院患者の食事管理
  • 輸血
  • リハビリテーション
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TOMBI System stats
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